カモミール
 彼がそう言うように、ナポリタンもオムライスも絶品だった。それらをクリームソーダで流し込む。食後に出てきたチョコバナナパフェには、サービスでいちごも載せてくれた。食べ過ぎてお腹がせり出しているのが分かる。ちょっと気持ち悪いくらいだ。

「ごちそうさまでした。これ、今月分の下宿代です」

「おう、サンキュ」

「お先にお風呂いただきます」

「どうぞ」

 お風呂に入って歯磨きをして、すぐベッドに身を投げ出した。あの男、気になる女がいるどころか女とよろしくやってやがった。思い出しただけで沸々と怒りがこみ上げてくる。結局荷物も持ち帰れなかったし。「もうここには戻ってこない」と言って合鍵も置いてきてしまった手前、アパートの荷物は手放すほかない。私は思い切り枕に拳を振り下ろした。怒りに任せて何度も何度も振り下ろした。そんなことをしているうちに、いつの間にか眠りに落ちてしまった。

 目を覚ましたのは真夜中だった。喉が渇いたので水を飲もうとダイニングに向かった。ダイニングの出入り口にはドアがなく吹き抜けになっているので、明かりがついていると人がいることがすぐに分かる。出入り口の珠暖簾をくぐると、真崎さんがステテコ姿でダイニングテーブルに座ってタバコと酒をのみながら新聞を読んでいた。風呂に入ったあとなのか、店ではオールバックだった髪は下ろしていた。それなのになぜかサングラスはしっかり掛けたままだ。ステテコにサングラスって…。しかも上は半袖の肌着だし…。店で見た姿とは違ってあまりのラフな格好に目が泳いでしまう。

「あ、起きたの?飲む?焼酎だけど」

 彼は事もなげな顔で、グラスを持ち上げる。まあ、お酒を飲むのも悪くないだろう。

「じゃあ、一杯いただいていいですか?」

「水割り?」

「ロックで」

「おお、いくねぇ」
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