カタストロフィ


燦々と降り注ぐ日差しを浴びながら、川縁に並んで座り、黙々とアイスクリームを食べる。
食べ終わる頃には少し太陽が傾き、うだるような暑さもましになっていた。
パラソルも差さず、日焼けを気にしないで外に出たのは一体何年ぶりだろう。
開放的な空気につられ、ユーニスは大きなあくびをした。

「ユーニス」

「なあに?」

返事をしてから、ふとユーニスはダニエルの声に違和感を感じた。
彼の声が、記憶にあったものよりわずかにだが低かったからだ。

「僕が学校に行きたがらない理由、聞きたい?」

唐突な切り出しに戸惑い、ユーニスは咄嗟に首を縦に振った。

「僕にはね、もう一人兄がいたんだ。名前はイーサン。歳は5歳上で、穏やかな優しい人だった」

他に兄弟がいたのは初耳だった。
過去形で語られるということは、もうこの世にはいないのだろう。

「亡くなったのね?」

「うん、自殺したんだ。父のピストルを持ち出して、自分の頭を撃ち抜いた」

サラッとした口調とは裏腹の凄惨な死因に、ユーニスは息を呑んだ。

「一体なぜ……」

「死んだのかって?学校でのいじめが原因だよ。イーサンは綺麗な顔だったから、同性愛者の先輩方に目をつけられたんだ。毎晩のように犯され、辱められた。そしてどんどん精神が病んでいって、3年前に自殺した」

パブリックスクールはただ勉強するだけの場所ではない。
貴族や富裕層の子弟ばかり集まるその空間は、ただ上品なだけではない。
そこには明確な上下関係があるため、時には理不尽な暴力に晒されることもある。

ユーニスは、その事を知識として知っていた。
しかし純粋な貴族でも、ましてや男性でもないユーニスにとっては、あくまで又聞きの世界である。
いまこの瞬間になり、ユーニスはダニエルと出会ったばかりの頃の自分を呪った。

(なんてこと……本当に、私は上っ面だけの言葉しか並べていなかった!これでよく教師を名乗れたものだわ)

「夏休みが終わりに近づくにつれ、イーサンはおかしくなっていった。そして遺書を遺して死んだ。遺書には、今まで自分がどういう風に陵辱されたのか、誰が自分の尊厳を犯したのか、事細かく記されていた。最後の一文は僕への警告だった。〝お前も、ここへ来たら僕みたいになる〟って、そう書いてあったんだ」

見目麗しい男の子は、パブリックスクールで慰み者になることがある。
イーサンがそうなってしまったのだ、ダニエルの美貌をもってすれば、あり得ない話ではない。

おまけに、シェフィールド伯爵家は家格の低い家ではないが、決して高くもない。
パブリックスクールには新興貴族やブルジョワジーの息子も通うが、シェフィールド家より立場が強い家もそれなりにあるだろう。
青褪めた顔で言葉を失ったユーニスを横目で見やると、ダニエルは行儀悪く草むらに寝転んだ。

「イーサンの忠告は遅きに失したものだった」

「なんですって?」

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