カタストロフィ


不意に、ユーニスの淡いグレーの瞳が潤んだ。
顔を背けたのは、泣く瞬間を見られたくなかったからだろう。
教師としての責任感に縛られて生きる彼女にとって、今の告白は相当ショックなものだったのだ。

(わかっていて我慢出来なかったんだ。救いようのない男だな、僕は)

彼女の職業意識を貶めるような真似をしておきながら開き直り、その上で心も欲しがっている。
その浅ましさに、ダニエルは自己嫌悪した。

「いきなりこんなこと言ってごめん。もっと少しずつ距離を詰めてから言えばよかった。他にもっとやりようがあったはずなのに、僕は自分の欲求に負けた。一刻も早く愛を伝えたいという欲望に負けたんだ」

「……しばらく1人になりたいの。先に屋敷に戻って」

目を合わせず、俯きながらユーニスが呟く。
それを受け、ダニエルは無言でガゼボを出た。

しばらく歩いてから振り返った時、ユーニスがハンカチで目頭をおさえている光景が目に飛び込んだ。
まだ1ヶ月も滞在時間が残っているというのに、初手で失敗してしまった。

スタートがこんなもので、本当にユーニスの心が掴めるのか。
どうしようもない不安に駆られながら、ダニエルは1人屋敷に戻った。


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