カタストロフィ


一度ざっと全体に目を通すと、二度目は一語一語を噛み締めるように読み直した。

こうしてダニエルと文通をするようになり、もう9ヶ月が経つ。
彼は筆マメで、とにかく手紙を寄越した。
ミラノにいる時だけではなく出先からもしょっちゅう手紙を出してくるため、ユーニスは消印に詳しくなってしまったほどだ。

夜に返事を書くことにし、いつも通り手紙を小箱に仕舞う。
文机の足元にあるその箱は、ダニエルからの手紙が増えてきて保管場所に困ったため急遽用意したものだ。
だがこの小箱もそろそろいっぱいになってきた。

離れて過ごしている事を感じないのは、それだけダニエルが日々のことを詳細に書いて送ってくるからだろう。
手紙を書き、投函しに行くだけで一体どれほどの時間を費やしているのか。
少なくない時間を自分のために使ってくれているという事実に、ユーニスの胸は甘く疼いた。

(私は、彼とどうなりたいのだろう)

ダニエルは時々、ユーニスが返信を出すよりも早く手紙を送ってくる。
その性急さは、去年の夏の終わりに唇を奪った時と変わらない。
そして、ユーニスの気持ちが傾くのを待つのも変わらないようで、手紙の最後には必ず愛のある言葉を送ってくる。

このマメな求愛は、頑なに閉ざしていたユーニスの心を溶かしつつあった。
本当に受け入れて良いのかためらいつつも、ユーニスはいつのまにかダニエルから送られてくる手紙が楽しみになっていた。

< 69 / 106 >

この作品をシェア

pagetop