カタストロフィ

「コンパニオンとして我が家で世話する予定だった少女が病気になってしまったの。今から相応しい条件の子を見つけるのは難しくって……多少メアリーと歳が離れているけれど、貴女なら申し分ないわ。見目麗しく、話しも上手、楽器もダンスも出来る。淑女としても、メアリーの良き手本となってくれるでしょう。女家庭教師(ガヴァネス)のお給金の他にお手当をあげるわ。だから引き受けてくださらない?」

断ることなどありえないと確信している上での問いかけに、苦笑いが出そうになる。
だがそんな感情は欠片も出すことなく、ユーニスは大人しく頷いた。

「承知いたしました。私などでよろしければ、メアリー様のコンパニオンを務めさせていただきます」

「ありがとう。では当日はよろしく頼むわね。そうそう、いつもの装いだと少し華やかさに欠けるから、私のドレスを貸してあげましょう。後で私の部屋にいらっしゃい」

「細やかなご配慮痛み入ります。ありがとうございます」

悠然と微笑み、ほとんど音を立てずにジェーンは立ち上がった。
衣擦れの音が遠ざかるまで、ユーニスは淑女の礼を取って見送る。
やがて部屋のドアが閉まり、ユーニスが一息つくなり、メアリーが華やいだ声をあげた。

「フレッチャー先生と一緒にお茶会!なんて素敵なの!」

「メアリー様、浮かれている場合ではございませんよ。今度のお茶会は社交界デビューへの第一歩、失敗は許されませんからね」

だいぶましになってきたとはいえ、まだマナーに不安があるメアリーはうっと声を漏らした。

「出来うる限りの準備をいたしましょう。マナーは私がみっちり叩き込みますからご心配なく。それよりも、招待されている方々の経歴や嗜好を調べ、あらかじめどんな話題をふるか考えておいた方がよろしいかと。今日中に奥様から招待客のリストをいただいてきますから、明日はそれに時間を使いましょう」

引き受けた以上は、コンパニオンとしての仕事もきっちりこなさなくては。
その思いから、ユーニスはさっさと段取りを決めた。

「もともと予定していた子には申し訳ないけれど、先生がコンパニオンを務めることになって良かったわ。すごく頼もしいもの!」

そう言ったメアリーは、どこまでも屈託のない笑みを浮かべていた。

「ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。たくさん学ばせていただきますね」

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