カタストロフィ


絶望感に襲われ、叫びたくなるのをぐっとこらえ、ユーニスは扇子を広げて表情を隠した。
そして元教え子のスキャンダルを笑い飛ばし、別の話題にすり替えた。

一瞬固まりかけた空気はユーニスの軽やかな態度により軟化し、その後メアリーのテーブルに集っていたご令嬢たちとも話すことで、ダニエルの話題はすっかり立ち消えた。

お茶会は大成功に終わった。
招かれるままにシェフィールド伯爵夫妻とメアリーとディナーを共にし、伯爵の小姓のアンドリューに自室に送られるその瞬間まで、ユーニスは意識して笑みを貼り付けていた。

そして完全に1人になったその瞬間、とうとう嗚咽をこらえることが出来なくなった。


「嘘つき、嘘つき……!」


なんて子供じみた、弱々しい罵倒なのだろう。
他にもたくさん恨み言があるはずなのに、ユーニスの気持ちに一番近いのはその一言なのだ。

この怒りを何かにぶつけなければ気が済まない。
ユーニスは、無意識のうちに便箋を手に取っていた。
そして羽ペンの先端にインクを含ませ、迷う事なく書き始めた。



『ダニエルへ


もう手紙を送らないでください。
私ももう返事はしません。
これまでたくさんの恋人がいた貴方のことだもの、きっとすぐに良い人が見つかるでしょう。
いつまで経ってもなびかないような女性になど構わず、貴方の愛に応えてくれる女性を大事にした方が良いわ。
時間は有限だということを忘れずに。


追伸
返信不要と言っているにも関わらず手紙を寄越してきた場合は読まずに捨てます。


              ユーニスより』


これを送ったが最後、今度こそダニエルとの繋がりは消えるかもしれない。
いや、もしかしたら繋がりなんてものは最初からなかったのかもしれない。

一体何が本当なのか、誰の言葉を、何を信じれば良いのか、ユーニスはわからなかった。

ただ一つ、はっきりしていることがある。
ユーニスはどうしようもなく傷ついていた。
そしてその傷は、これから先癒えることはないという予感があった。


「嘘つき……」


新しい涙が頬を濡らす。
もう、認めるしかなかった。
ユーニスは、ダニエルに惹かれつつあったのだ。
だからこそ、ダニエルの過去が許せない。
自分だけの物でいてくれなかった彼が許せないのだ。

翌日、ユーニスは自ら手紙を投函しに郵便局まで出かけた。
そしてその日以降、ダニエルから来る手紙の量が倍増したが、ユーニスは一度も読むことはなかった。

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