ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

好きだ

エスターの視線に、シャルはビクッと体を震わせた。
恐る恐るエスターを見上げると、青い目が全てを見透かす様に見つめている。
その目がフッと妖しく細められた。

「『返し草』少し苦いらしいけど、まず飲んで」

カップがシャルに手渡された。



 コクリと一口飲むと、思わずベーッと舌を出したくなるほどの苦味が口の中に広がる。
しかし、シャルの心はそれどころではなかった。


……バレている……気がする……

「ちゃんと全部飲んで、シャル」

うっ……この顔は……完全に……怒っているよね……

私がお茶を全て飲み干すと、エスターは妖艶な笑みを浮かべた。

「体が戻るから、服を脱いでベッドに入って。そのままだと大変だから、僕は後ろを向いているから」

私は素直に言われた通りにした。
ベッドへ入り上掛けを掛ける。

「できました」

そう言うとなぜかエスターは添い寝をした。
横向きで肘をつき頬杖をつきながら私を見下ろす。

「いろいろ聞いたんだよ……バート侯爵にね」
「いろいろ?」

六歳の子供らしく笑って見たけれど、既に意味をなさないようだ……

「いつから記憶は戻っていたの?」

 スリ、と手で頬を撫でられる。
エスターは、ゆっくりと小指の先で、頬から唇へと撫で上げる。

(ううっ……その仕草は子供にしてはいけないと思う……)

「……次の日に……シャーロット様のお部屋に行った時です」

ぷに、と人差し指で頬を押された。
……うっ

「どうしてすぐに教えてくれなかったの? 言ってくれたら、暗示なんてすぐに解除出来たのに」

ぷにぷにと軽く押されながら私はその理由を言った。

「彼女の気持ちが……本気だったから」
「本気だったから?」

「だって、私……すごく……気持ちが分かったの……」

 薬を盛ったことはいけない事だったと思う。
死に至るような薬では無かったけれど、エスターが言っていたように、使われた場所次第ではどうなっていたか分からない。
甘いと言われるかも知れないけれど

でも……
彼女は、ただ好きだった
エスターの側に、好きな人の近くに居たかった

それに、嫌いなはずの私にちゃんとマナーを教えてくれた。

憎いはずの私に、エスターの話を聞かせてくれた。
エスターの話をする彼女は、とてもキレイだった。
 
 客間に掛けてあったドレス
王女様のお茶会の時に着替えて、無くしていた、最初にエスターが私にくれた、古代文字の入ったドレスがそこにはあった。

なぜ彼女が持っていたのかは分からないけれど……
所々破れてはいたけれど、大切にされていた……
シャーロット様の、愛おしそうにドレスを眺めている顔を見たら、どうしても彼女を嫌いにはなれなかった。

時々怖い事もあったけど
(暗示も掛けられちゃったけど )

彼女はただの恋する女性だった

好きだから、結婚したいと思うのは、おかしなことではない……

私だって、あんな風になってしまっていたかもしれない

誰だって……

恋をしたら、人は変わってしまうのだから
< 116 / 145 >

この作品をシェア

pagetop