ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
私とエスターは来月、結婚式を挙げることが決まった。

「どうしても今日じゃないとダメなの?」
「うん」

私はねだるようにエスターを見つめる。

「今日ね、ブーケを作ってくれる花屋さんが来ることになってるの」

エスターは私の頬に手を当て青い目を細めた。
ううっ……ダメだ……エスターの視線には負けちゃう。

「それはシャーロットじゃなくてもいいよね?」

そう言うと彼は額に口づけを落とす。

「だって、ドレスを見せないと……」
「オスカーに頼むよ、ドレスを見せるだけなんだろう?」
「……うん、そうだけど」

 今日、ブーケを頼んだ花屋さんがレイナルド邸へ来ることになっていた。
ソフィアから貰ったブーケが素敵だったとエスターに話すと、じゃあ同じ所で頼もうと言ってくれたのだ。
その花屋さんがブーケのデザインをするので是非ウエディングドレスを見せて欲しい、と言われていた。
……ウエディングドレスは昨日届いて……

「オスカー様に頼んだりしてもいいの?私達の事なのよ?」
「いいよ、オスカーは暇なんだから」




 エスターがチラリと横目で俺を見ながら、またシャーロット嬢にキスをしている。
朝から長いんだよ! そんな濃厚なヤツ見せるな!
……くそっ! まだ『花』に出会えていない俺への当て付けなのか⁈

「……悪かったな、暇で」

悪態をついてみるがそれを気にも止めず玄関でイチャイチャとする弟達。

「行けよ、ドレスを見せるだけなんだろう? 大丈夫だ、どうせ今日暇なのは俺だけだしな、気にせず行ってこいよ」

「じゃあ頼むよ」
「すみません、よろしくお願いします」

 二人は新居を見に行った。今日、父が彼等に渡した屋敷の改修工事に入るらしく、その様子をどうしても今から見に行くとエスターが譲らなかった。

 父と母も出掛けて、バロンもカミラも、とにかく皆何故か今日に限って忙しい。
この邸には昼過ぎまで俺しかいないのだ。

 魔獣もここ最近は出ていない。
この前の様に大量に出た後暫くは、何故か出なくなるのだと父が言っていた。
この間に魔獣討伐に行っていた騎士達は、長期の休みを取ることが決まった。

ま、ゆっくり休ませてもらうか……

……暇だ……大体、竜獣人に休みなど無くても平気なんだ。

……する事がない。

 
 花屋の御夫人が来ると言っていた時間は、昼前だった。

 俺は、父が母の為に玄関前に作った庭にあるベンチに腰掛けた。
ガラスの天井から日が差し込む。

……はぁ、めちゃくちゃ天気がいい。

 玄関に庭があるなんて変な家だよな……と子供の頃は思っていたが、コレは母を外に出さない為らしい。……監禁じゃないよな? 確かガイア公爵邸の中にも噴水があった、それも妻の為だと言っていた……うーん……?

 そんなことを考えながら、俺は珍しくうたた寝をした。こんな事は子供の頃以来だ。

「……の……」

すごく可愛い女の子の声がする。

「……あの、……す」

ああ、めっちゃ好み……

「あのっ、レイナルドさんっ!起きて下さいっ」
「はっ⁉︎ 」

 思わず飛び起きるとそこには、ふわふわのハニーブロンドの髪の女の子が、クリッとした茶色の目で俺を覗き込んでいた。
起きた俺の顔を見て真っ赤になっている。
……かわいい……

「うわっ、ご、ごめんなさい。あの、玄関で声をかけたんですけど誰もいらっしゃらなくて……それで扉を叩こうとしたら何故か開いて……入ってしまいました」

 なんだろう、日の光のせいかなぁ? この子の髪色のせいかなぁ? 女の子の周りがキラキラしている。

「レイナルドさん?」

「ああ、すまないつい寝てしまっていたんだ……君は?」

「あ、私はマリベル花店から来ました。本日はブーケのご依頼で……ドレスを見せて頂く事になっていまして」

花店? この女の子が?

「弟達から聞いています。彼等は今出ていて、俺が代わりにドレスを見せることになって……あなたが店の主人?」

「いえ、違います! 私は娘です、母の代わりにお伺いしました」

はにかむように笑う小柄な女の子。
よかった、娘……そうだよな、どう見ても歳は同じくらいだ。

俺は手を差し出した。

「俺はオスカー・レイナルドです」

「あ、私はティナ・マリベルです。よろしくお願いします」

彼女が手を差し出した。
少し切り傷の跡がある白い小さな手。

その小さな手を取った瞬間


ーーこれかーー

ドクンッと体の奥に衝撃が走る。
繋がれた手からは熱が生まれているように熱くなる。
鼓動は速まり、身体中が熱を持つ。

「あの……オスカー様?」

俺はそのままティナの体を引き寄せた。

驚いて俺を見上げる彼女を、離さないように見つめる。

「俺の……瞳の色……変わった?」

ティナはジッと俺の目を見つめる。

「はい……すごくキレイな金色に……」

 そのままティナと俺は何も話さず見つめ合った。
どれぐらいの時間か分からないが、だんだんと顔を寄せていき、もう少しで二人の唇が重なるその時

「オスカー、お前やっと『花』に出会えた様だな」

ハッとして、声の方に振り向けば、ニヤニヤと笑う父と母が玄関に立っていた。

なんで今帰って来るんだよっ!

「……『花』?」

ティナが不思議そうに首を傾げて俺に聞いてくる。
その仕草すらなんて愛おしく思えるんだろう

俺はティナの頬に手を添える。

「ああ……君は俺の『花』だよ」


ーーやっと出会えたーー
俺のーー『花(ティナ)』
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