アンドロイド・ニューワールドⅡ
聞いてもらっているものと仮定して、話を進めます。

「現在約二時間、正確には二時間四分が経過していますが、未だに喧嘩は続いています」

『そうなんだ…。長丁場だね…』

「はい。しかし喧嘩の内容は、既に皿の話ではなく、一時間前程前から『妻が買ってきたアイスを、冷凍庫に入れずに溶かしてしまった』話に変わっています」

『それは…うん…。不注意だったね…』

と、奏さんは言いました。

「はい。夫の主張は『それがアイスだと思わなかった。そういうことはちゃんと伝えろ』だそうですが、それに対し妻は、『そんなの見たら分かるでしょ!』とのことです」

『うん…。両者の言い分共に、分からなくもないね…』

と、奏さんは言いました。

「更に40分程前から、また喧嘩の内容は変わり、『床に脱ぎ散らかした靴下』の話に変わっています。恐らくは、過去に起きた事件を蒸し返しているものだと思われます」

『そうか…。夫婦喧嘩あるあるだね…』

と、奏さんは言いました。

はい。この夫婦は、しょっちゅう長い喧嘩をしていますが。

喧嘩が終わったとき、始まったときのきっかけと、終わったときに話していた内容が、一致していたことはありません。

必ず途中から、別の話題を持ち出して、口論しています。

この夫婦に限ったことなのか、世間一般的に夫婦喧嘩というものがこうなのか、私には判別しかねます。
 
ともかく。

「私は、隣家の夫婦の喧嘩の行く末を、このまま見守りたいと思っています」

と、私は言いました。

人間観察の為に、この二人の喧嘩は、とても有益です。

人間というのは、こんなことで喧嘩をするのか、というデータを収集することが出来ますから。

『…』

「よって、私は今、暇ではないということになります」

『…あのさ、瑠璃華さん』

「はい、何でしょうか」

『敢えて言わせてもらうけど…。君は今、凄く暇だと思うよ』

と、奏さんは断定的に言いました。

このときの私の衝撃は、言葉では言い表せません。
< 41 / 467 >

この作品をシェア

pagetop