望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
「不要だ。あれはそれを望んではいない」
 次の書類に手を伸ばす。

「ですが、あのままでは団長の奥方は悪者に」

「それでかまわん。何しろダレンバーナの女だからな」
 レイモンドは書類から目を離そうとはしない。ロバートの方を見向きもしない。

「もしかして、団長の奥方はわざとあのような振舞を?」

「さあな、私は何も知らない。これ以上のこの件について話しても時間の無駄だ。さっさと持ち場に戻れ」
 ロバートは一礼して、団長室を後にした。

 ロバートがいなくなると、レイモンドは書類に走らせていたペンを止めた。
 きっと、あの毒物は隠れ獣人を表に出すためのものだったのだろう。それにカレンが気付いてくれたというのは、同じ獣人として感謝に値する行為だ。しかも、わざと自分が悪役になることで、それを表沙汰にすることを避けた。
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