望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
 気付いているのはその飲み物を準備した人間だけだろう。つまり、あのパーティの主催者、ということか。
 やはりあっちはダレンバーナの女だな、とレイモンドは思った。

 そこまで考えたが、集中力が途切れてしまったため、ペンを乱暴に机の上に放り投げた。レイモンドは限界まで椅子に寄り掛かると天井を仰ぐ。

 あのとき、思わずカレンの頬を叩いてしまったのは、あの状況ではああするしかないと思ったからだ。彼女は悪者になろうとしていた。いや、ダレンバーナの女を演じようとしていた。普段の彼女からは感じることのない強い意志を、その目から感じ取った。だから、思わず叩いてしまった。そうすることが正しいと思われた。だが、彼女に手を上げたことを、すぐに後悔した。
 それとは裏腹に、彼女の目は満足そうだった。自分がすべきことをやった、とでも思っていたのだろうか。

 あれ以降も普段と変わらず、彼女は屋敷で過ごしている。レイモンドの顔を見ては、感情の無い表情を作る。まるで無表情の仮面というものをかぶったかのように。
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