trade

「紫織ちゃん、クールに見えるのに。
けっこう、天然だね」


そういえば、永倉さん自身が言っていたな。


昔、兄弟でサーカスを見に行って、その時の虎が綺麗だったか、そんな感じの事を。



「昔、俺達兄弟でサーカス見に行って…。
あ、ふうちゃんの下にもう一人弟が居て、俺ら三人兄弟なんだけど」


同じ事を永倉さんにも聞いたけど、
話を邪魔しないように相槌を打つ。



「その時、うちの一番下の弟が、虎見て凄くはしゃいで。
そこから、一番下の弟のみー君、虎大好きで」


あれ?


虎が好きになったのは、永倉さんじゃなく、その、三男だと思われるみー君?

それとも、二人共、虎が好きなの?


「ふうちゃんがヤクザになってから、
ふうちゃんとみー君、ちょっと上手く行かなくなってね。
みー君の方が意地はって、ふうちゃんを避けてるって感じかな?
まあ、ふうちゃんも素直じゃないんだけど」


その辺りの事も、そういえば永倉さんから聞いたな。


昔は、弟と仲良かったけど、今はそうでもないと。


「そうやって、そんなみー君に好かれたくて、
みー君の好きな虎を背中に入れちゃうふうちゃん、可愛いと思わない?」


その話が本当なら、確かに永倉さん可愛いかもしれない。


そう思い、クスクス笑うと、そんな私を、一枝さんは見詰めて来る。

その眼差しは、とても熱っぽくて。

「あの…ハッキリさしていいですか?
その、一枝さんは、私の事…」


話の流れから、気に入ってはくれてるみたいだけど。


別に、私と付き合いたいとか、そんな真剣な思いじゃないよね?


もし、そうなら、なんか困るな。



「俺は紫織ちゃんの事、遊び」


そう、ハッキリと口にした。


「そうですよね。
ハッキリと言って貰えて良かったです。
ごめんなさい。変な事訊いて」


「そんな、露骨なくらい安心した顔しないでよ」

そう、笑っている。


相変わらず、私の手を握っていて。

私に本気じゃないのは分かったけど、
本当に、遊びなの?とも思ってしまう。


なんだか、この人、いまいち考えている事が分からなくて不気味で。


だから、必要以上に深く関わりたくないな、と警戒したような気持ちを持ってしまう。
< 30 / 129 >

この作品をシェア

pagetop