trade
「一枝さんは、彼女とか居るんですか?」


このマンションを見る感じ、一人暮らしっぽいから、独身なんだろうけど。


彼女は、居るだろうな。


「彼女は、もうずっと居ない。
18の時からだから、かれこれ、16年近く」


その、長年彼女が居ないのもそうだけど、
この人の年齢が、34歳くらいなのか?と、見た目がそれより凄く若く見えるから驚いた。


弟の永倉さんより、見た目はこの人の方が若い。



「もしかして、その18歳の時の彼女を引きずってるんですか?」


そう言って、それはまるで私じゃないか、と思う。


私が16の時、突然姿を消した蒼君の事が、今も大好きで。


ただ、私はその後色々な男性と付き合ったりして来たけども。


「実は、その通り。
スッゴイ引きずってる」


そう、明るく言われるから。


あれ?本当かな?と疑ってしまう。

冗談とか?


「その彼女とは、まるでロミオとジュリエットのような関係で。
出会いは、高校の同級生なんだけど。
俺の家、ふうちゃんだけじゃなく、父親もヤクザなんだけど…。
いや、父親がヤクザの組長だから、ふうちゃんもって感じで。
で、俺のその彼女の父親は、警察官でね。
だから、お互いの親から、猛反対で」


え、それって、ダメなの?


よく分からないけど…。


ただ、親がヤクザだという男と娘の交際を、警察官の親じゃなくても、普通は反対はするよな。


逆に、この人は親がヤクザだから、
そうやって警察官の娘との交際を反対されたのか。



「俺達、まだ若かったから、そうやって親に反対されればされる程、燃え上がって。
でも、俺は途中で冷静になっちゃって、俺から別れを切り出して。
いつか、彼女が他の誰かを好きになればいいって。
わざわざ俺を選んで、棘の道を行くよりも。
彼女の幸せを思って…って言うと、聞こえがいいけど。
あの時、自信が無くなったんだよね。
彼女を幸せにしてあげられる」


「それで、一枝さんは、その彼女と別れたんですか?」


「そう。
そしたら、彼女その後、自殺しちゃって」


その言葉に、心臓の鼓動が強くなる。

< 31 / 129 >

この作品をシェア

pagetop