シンガポール・スリング
「未希子の状態は?」
「血圧の数値があまり良くない。挙げていけばキリがないが、脱水症状、睡眠障害による緊張型頭痛を伴っている。多分その痛みで時々目が覚めるんだろう。それに急性胃潰瘍にもなっていて胃に穴が開きそうなほどただれている。胃カメラでは出血は確認できなかったから、ぎりぎりってところかな。まぁ完全なる急性ストレス障害だ。何がどうなってあそこまでほっといたんだ?もし俺の彼女だったら、絶対にあんなふうに傷つけるようなことはしないし、どんなことがあっても守ってあげようとするけどな」
レンは両手に顔を埋め焦燥感を募らせながら、上村の言葉を受け止めていた。
「で?彼女は一体誰なんだ?」
上村は夜空を見ながら尋ねた。
「未希子は・・・」
レンは未希子との関係を一言でどういえばいいのか今もわからなかった。
恋人ではまだない。
お見合い相手というのが一番近い気もするが、そんな他人のような関係にしておきたくない。少なくとも・・・・
「未希子は誰にも渡さない」
・・・いやいや、そんなこと聞いてるんじゃなくてさぁ。上村はあきれたようにつぶやくと、まぁレンにとっては大切な人ってわけだ、と納得したようにうなずいた。
そして、上村はレンの肩に手を乗せると安心しろとでもいうように軽くたたいた。
「任せろって。俺が最後までちゃんと受け持つよ」
は?
・・・いやいや、おかしいだろう?お前、救急だろう?
レンは心底嫌そうに拒否した。
「オレ、まだ未希子ちゃんと話してないし」
「・・・・・」
「レンが焼きもちを妬くほどの女の子なんて今まで会ったこともないしさ。めちゃくちゃ興味あるんだけど」
「・・・・・・・・・・・」
「未希子ちゃんとお友達に・・・」
「断る」
「なんでお前が断るんだよ」
「未希子の病室に近づくことは許さない」
「悪いけど、ここ俺の病院なんだけど」
「お前じゃなくて、お前の親父さんのだろう」
「今はそうだけど、そのうち俺のになるんだし、同じようなもんじゃね?」
「将来そうなるかもしれないが、今はお前の親父さんの病院だ。お前が勝手に救
急から入院棟なんて移れるわけないだろう!」
「だからぁ、半分俺の病院みたいなもんだからそういうのは優遇効くわけ」
何の優遇だよ。
心底嫌そうにしているレンを見ながら、上村はニヤッと笑うと俺に任せておけば大丈夫だからとレンの肩に腕を回した。
絶対に未希子に会わせないよう上村の父親である第一病院の医院長、上村敏夫に朝一で話をしようとレンは心に誓った。