不器用主人の心は娘のもの

自身の過ちと彼女の温もり

 帰ってくると彼は残りの仕事を終わらせ、また一人食事を始める。

 明日にはこれを娘に手渡してやれる。
 今晩のところは、何食わぬ顔で彼女を抱きしめてやれればいい。

 彼は自らの気持ちを落ち着かせながら娘に会うための支度を始めた。


 夜、彼は主人として娘のいる部屋に来ると、彼女の手首をじっと見つめた。

 彼女が自分に怯えなければ、命を断つ心配さえなければ、縛らずに済むというのに…

 彼は縄を外した彼女の手首をそっと撫でた。

 しかし驚いた彼女は手を引こうとしたらしい。
 彼は拒否をされたような気分になり、ショックのあまり娘をベッドに強く押し付け苛ついた声で言った。

「…分からせてやる必要があるか」

 娘は彼の様子にビクリと震え、怯えながら許しを願った。

「許してっ…許して下さい…!どうか、お許しをっ…!!」

 彼はハッとした。

 泣き続ける娘を見て、彼は今自分のしたことを後悔をするばかり。

(…また怯えさせてしまった…)

 彼はこれ以上痛めつけないよう娘を優しく抱きしめ、優しく身体を重ねた。


 日中には彼女のためにぬいぐるみを買い上げ、想い気を遣って彼女を抱いた彼は、慣れないことに珍しく疲れ、初めて娘のそばで眠ってしまった。

「ん…」

 目を覚ますと、娘は自分の腕におさまりこちらを見ていた。

(…彼女がこれで、笑っていてくれたなら…)

 彼はぼんやりとしながらそう思った。
 寝ている間にも、彼女が大人しく自分の腕の中にいてくれたことがとても嬉しかった。

 そして仮面の奥で自分の顔が緩んでいくのを感じながらしばらく見つめる。

 やがて名残惜しく思いながらも自身の身を整えて部屋を出て行った。
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