不器用主人の心は娘のもの

失意

 彼の力は抜け、もう立っていることも出来ずに彼女の部屋の外で崩れ落ちる。

 本当に何もかもが遅かった。
 せめてエイミの前でだけでも早く自分の正体を明かすべきだったのだ。

 人を疑うことも知らない世間知らずな彼女に、なぜ自分は早く打ち明け、道を選ばせてやることをしなかったのか…


「っ、エイミ…!!」

 コリーンが、すぐそばのエイミの部屋に駆け込んで行った。

 しかしすぐにエイミの叫び声が聞こえる。

「っ、出ていって下さいっ…!!誰にも、会いたくありません!!手を外したら、私は死にます…!!」

 コリーンは急ぎ泣きながら部屋を出て、廊下に崩れる。

「っ、御主人様っ…エイミを…助けて下さいっ…どうか…」

 自分の近くで必死に声を抑えて泣くコリーン。

 コリーンはもちろんとうに、娘の名を知っていたのだ。それに今まで彼女のことを本当の妹のように扱っていたのだから、よほど大切に思っていたに違いない。

 部屋の中からはエイミの嗚咽が聞こえている。

「…すまないコリーン…私には、もう…本当に、すまない…」


 バラドは離れた場所でしばらくその様子を、何も言わずに見つめていた。



 エイミは、次の日もその次の日も部屋にこもったまま。
 コリーンが来れば言葉で部屋を追い出し、食事も摂ろうとはしなかった。

 毎日コリーンはエイミに食事を運び落胆して戻る、仕事もろくに手につかない日々を送っていた。

 彼も抜け殻のようになり、仕事もろくに手につかないまま毎日コリーンの部屋に行き、力無く頭を下げていた。

「…すまない、コリーン…すまない…」

 彼自身の食事も、全く喉を通らず過ごす毎日。

 彼にはもう、どうすることも出来なかった。

 コリーンすらも拒否をしたエイミ。
 命を断つとまで言われては、誰も近付くことが出来ない。

 バラドは彼の仕事の補助をしながら、毎日娘の様子を部屋の外から伺っている。

 屋敷の他の者たちはただ黙って彼らを見守っていた。
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