不器用主人の心は娘のもの

別れのとき

 そしてとうとう三日も経つ頃の夜明け前。

 エイミの寝息を聞きつけ、ようやく部屋の中に入ったバラドから『娘は眠っている』と報告があり、彼はすぐさまコリーンとともに部屋へ向かった。


 部屋の薄いカーテンは三日前と同じく閉められたまま。
 ベッドには顔を伏せるように身体を崩したぬいぐるみがあり、そのそばには柵に手を縛られたままのエイミが力無く眠っていた。

 彼がエイミの顔をそっと撫でると肌はかさつき、小さな灯りのもとで見ると目の下には隈が出来ていた。

 隣にいるコリーンに目をやると、コリーンは彼女を起こさぬため何も言えずに震えたまま見つめていた。

 やがてコリーンがゆっくりと頷くと、エイミの身支度をさせるため彼は│手筈《てはず》通りに部屋を出る。

 彼は自らを主人の姿に整えると、傷に薬を塗られ、身体を拭き上げられ着替えさせられたエイミをそっと抱き上げた。

「解放しよう、エイミ…。自由に生きて…私を憎み、そして、忘れてくれ…」


 彼は眠ったままのエイミを馬車に乗せ、早朝の街を行く。

 柔らかな海綿を水筒の水で軽く濡らし、エイミの口に入れて湿らす。
 およそ三日も水分を摂ることのなかった彼女のために、ゆっくりと何度も。

 そしてエイミが目を覚まさないうち、そっと静かに二人が出会った街外れの家へ…

 あとは『冷酷な主人』として彼女の両親に振る舞うだけ。

 それは彼にとってエイミとの別れのときだった。


 街外れに着くと、この辺りではめったに通らないであろう馬車の音を聞きつけエイミの両親が家から出てくる。

 相変わらずの粗末な身なり。
 それに加え、借金も完済しているというのに二人とも疲れ切っている様子だった。

 彼がエイミを抱え直し馬車を出ると、彼女の両親はその姿を見て立ち尽くす。
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