不器用主人の心は娘のもの

『主人』の対応

 素早く主人の姿に身を整えた彼は、屋敷の者たちをすぐに集めた。

「人間の娘を飼うことにした。コリーン、お前は私が飽きるまで娘を屋敷に置くため、娘の世話をしろ。まずは洗い上げて身体を調べておけ」

 昔から知る『主人』姿の彼の言うこと、大半の屋敷の者たちは驚きながらもすぐに理解し頭を下げる。

「はい御主人様」

 コリーンも澄まし、うやうやしく頭を下げた。しかしすぐに彼女の顔には少々楽しげな笑みが浮かんでいる。

(…コリーンは食えない娘だ…)

 コリーンは医者の娘。
 しかしそちらに出向いた際に、親にも相談せずにこの屋敷で働くと突然言い出し、本当に身一つで彼女はやってきた。

 今思えば彼女も少々変わっているのかもしれない。

 冷酷と言われている主人の屋敷に、進んで自らやってくるなど。まして彼女の歳は自分と十は違わない。
 来た娘の世話をと命じたとたん楽しげに笑みを浮かべるなど、同情心よりも彼女の年頃らしい好奇心が勝ったゆえだろうか。


 馬車からバラドが連れてきた娘を自室の書斎で迎える。

「…これが買った娘か」

 主人の姿のまま出来るだけ素知らぬふりでそう言うと、娘はさらに怯え足を震わせた。

 冷酷な仮面の主人の噂は聞いていたのだろう。彼はなおも乗り移られたように冷たく言い放つ。

「この娘を磨き、良く調べておけ。そして物置部屋に押し込めろ」

 彼が出ていけという仕草をすると、バラドは半ば引きずるように彼女を連れ出し部屋をあとにした。
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