不器用主人の心は娘のもの
「好きだ…『執事』姿の自らに嫉妬するほど…!!こんなにも…こんなにもお前を想っている…!それなのにお前は三日も食べず、その衰弱した身体で屋敷まで戻ってくるなんて…!お前に何かあったら、私は…」

 彼は仮面が剥がれ落ちていくのも構わず寝そべるエイミを抱きしめ、そのまま崩れた。

「…諦めるつもりだった…冷たく言えば、私を嫌い忘れるようにするだろう…。そうすれば私もきっと諦めが付く…そう考えていたのに…それなのに戻ってくるなんて…!」

 張っていた気は抜け、涙が出そうになった。

 やっと自らの気持ちをこの姿で伝えることができた…
 弱ったまま、無理してでも自分のいるこの屋敷へ戻ってきてくれたエイミに、やっと…

「お会いしたかったから…御主人様に、たくさん…!!やっと、聞けました…それなら、やっと私も言えます…」

エイミは彼に抱きしめられながら告げる。

「御主人様のことが、好きです…お慕いしています…!『リュカ』を頂いて、私はとても嬉しかったです…!」

 これ以上の喜びがあるだろうか。
 エイミからの想いと心からの礼を聞くことができた。

「…私も悪かった…『主人』だからといって何も打ち明けなかったばかりに…」

「御主人様…」

 エイミが彼を呼ぶと、彼は照れくさくなり言う。

「仮面が無いときは『テイル』と。主人の姿では、まだ素直にはなれないんだ…」

 自分が二つの姿を持ったのは、本当に他愛もない理由。 しかし今ならエイミに聞いてもらえるだろうか?
 気恥ずかしく思ったが、エイミには知っていてほしかった。
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