婚約解消しないと出られない部屋
2 オレリアの家でのある日の会話


 伯爵家令嬢である私オレリアと、伯爵家令息であるジルフリート様は、幼馴染で婚約者だ。

 でも、その仲は最悪も最悪、お互い顔を合わせると目を逸らすのがデフォルト、二人でいても憎まれ口ばかりの、冷え切ったもの。
 正直、私とジルフリート様よりも、私とジルフリート様の弟であるセドリック様との方が仲がいいし、ジルフリート様と私の妹であるアリアーヌとの方が仲がよかった。

 そんな私達を見ているのに、何故両親が、私とジルフリート様を婚約者にしたのか。



 私が、ジルフリート様のことを、めちゃくちゃ好きだからだ。



「あなたはお父様に似て、好きな人にだけは本当に天邪鬼よね……」

 げんなりした顔で言うお母様に、お父様はいたたまれないのか、目を逸らす。

「オレリアお姉様、今日もまたジルフリート様に酷いことを言って……一体何が気に食わないのよ」
「気に食わないことなんてある訳ないでしょう!? ジル様は見た目も中身も美しい天使なのよ? いつか天に帰ってしまうかもしれないと思うと身動きが取れなくなるのは仕方ないことよ」
「……じゃあ、せっかく珍しくお家に誘ってくれたのに、なんで他の女を誘えとか言うのよ」
「こ、この間のお茶会で、ジルフリート様が沢山女性に話しかけられていて……楽しそうだったし……私なんかがジルフリート様のお家に行くなんて……」
「いや、弟のセドリック様に誘われたらいつも行くでしょう。行き先は同じなのに、ジルフリート様に誘われたときだけ、なんで断るのよ」
「……だって……………………」
「だって?」
「ジル様に誘われたと思ったら!! 嬉しすぎて心臓が爆発しそうになるから!? 生命の危機を避けようと思ったら、気がついたら断ってたのよおおおお」
「本当、5年間もこんな……よくやるわ……」

 ソファのクッションに顔を埋めて泣く私に、手がつけられないとばかりにアリアーヌはため息をついた。

「お母様、この間のやつ。もういいわよね?」
「そうね、もう仕方ないわよね」
「パパはもうちょっと待ってあげてもいいと思うんだ」
「あなたは黙ってて。あなたの私に対する態度も、相当だったんだからね」

 お母様がキロリとお父様を睨み、すくみ上がるお父様。

「……なに、なんの話をしてるの?」
「ううん、お姉様は何も知らなくていいの。安心して、私達に任せてちょうだい」

 そう言ってにっこり微笑む私の妹は、まるで天使のようだった。



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