東京の優しいところ
(1)
襟元から入ってくる空気の冷たさに、健治は夏の終わりを感じずにはいられなかった。その冷たさを全身に浴びるように、思い切りブランコを漕ぐ。健治の隣りで遠藤はまた煙草を取り出して火を点ける。遠藤の足下には、さっき吸い終えたばかりの吸い殻が、まだ細くて白い煙を吐きだしていた。
健治は遠藤が話し始めるのを待ち、一方で遠藤は、健治がブランコを漕ぎ終わるのを待っているように見えた。「事」が始まるのを拒むかのように、二人ともが、それぞれの行為を止めることができずにいるようだった。
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