結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 店を出た凛音は龍一に声をかけたが、なんと言うべきなのか迷ってしまう。

『ありがとうございます』では図々しいが、謝罪するのも失礼に当たるだろうか。
困惑を彼は察したようだ。ふっと薄く笑んで、ぽんと凛音の頭を叩いた。

「これは俺の買い物だ。お前が気に病む必要はまったくない。それより……」

 龍一は六本木のにぎやかな通りに目を向けながら続けた。

「腹が減らないか? なにか食べて帰ろう」
「は、はい」

 デートだなんて、妄想にしてもおこがましいのはわかっている。

 龍一にとって、凛音は自分の母親を追い出した憎い女の娘だ。それに、あの結婚さえなければ彼の父親は今も健在だったかもしれないのだ。恨む理由は数あれど、逆の要素はなにもない。

 六本木の街は若いカップルやビジネスマンの群れでにぎわっている。この街の夜は長い、まだまだこれからだと言わんばかりの喧噪に満ちている。

 身長の低い凛音はすぐに雑踏にのまれそうになって、そのたびに慌てて龍一の背中を捜す。その様子に気がついた彼が振り返る。

「子どもじゃないんだ。迷子になるなよ」
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