結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 凛音が小首をかしげてみても、彼は黙りこくったまま視線をそらさない。深みのある黒い瞳に吸い込まれそうになって、凛音は慌ててぱっと顔を背ける。

 心臓の波打つ音がよりいっそううるさくなり、彼にも聞こえてしまうのではないかと心配になるほどだ。

「車のキーをお借りしても大丈夫ですか。すぐに――」

 雨はほんの一瞬で勢いを増していて、短い距離とはいえ駐車場まで歩いていては身体が冷えるだろう。自分が行くべき、凛音はそう判断した。

「きゃあ」

 店の軒下と道路の間にある数段の階段をおりようとしたところで足を滑らせ、身体が後方に大きく傾く。

「凛音!」

 どんという衝撃と同時に背中に温かなぬくもりを感じた。凛音の腰からおなかをしっかりと支えてくれる逞しい腕は、龍一のものだ。

「ご、ごめんなさい」

 軽く振り向くと、想像以上の近さに彼の顔があった。視線が絡まると、まるでときが止まったように静かな空気がふたりを包んだ。

 言葉もなく見つめ合う。

 色気のある切れ長の双眸、すっきりとした鼻梁、顎から首筋にかけてのシャープで男性的なライン。
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