結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 ふいに彼と初めて会ったときのことを思い出す。

 場を支配するような、圧倒的な美貌に息をするのも忘れて見入ってしまったあの日。あれから十年の月日が流れたなんて嘘のようだ。

 龍一はちっとも変わらない、いや……大人の魅力を増した彼はますます美しく、凛音の心を惹きつけてやまない。

(不毛だってわかってる。でも、いいんだ。思っているだけで十分に幸せだから)

 ほかの誰かと恋なんてしない、結婚にも興味はない。龍一だけを見つめ、彼を愛した記憶とともに棺に入る。それが凛音の人生設計だ。馬鹿だと笑われようとも、きっと後悔はしない。

「龍一さん?」

 ささやくような声音で凛音は彼を呼ぶ。

 二十センチ以上ある身長差が今は段差のせいでさらに広がっている。高いところにあった彼の顔がゆっくりと落ちてくる。

(え……)

 瞬きをひとつする間に鼻先が触れ合うほどの距離まで近づいていた。彼がわずかに顔を傾ける。その仕草の意味することは……凛音は反射的にぎゅっと目をつむった。

 どんな心情でそうしたのか、自分でもうまく説明できない。期待か、困惑か、あるいは恐怖か。

 だが、凛音の想像が現実になることはなかった。
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