結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 当主になることはともかく、社長就任については反対派も多かったそうだ。

 彼が成長するまでは、経験豊富な役員を社長に据えるべきだという意見が多数出て、議論は紛糾したらしい。

 だが、龍一は『二年で結果を出す。出せなければ潔く身を引く』と周囲を説得し社長の椅子に座った。

 まだまだ社内は混乱しており彼は寝る間もないほど多忙なはずだった。その彼がなぜ?と凛音は不思議に思って尋ねた。

『あの、なにか?』
『母親が死んで天涯孤独になったのに、泣きもしないのか?』

 好青年を絵に描いたような彼がやや意地悪な笑みを浮かべたのに、凛音は驚いた。そして、ほんの少しだけそれをうれしく思った。

 誰も知らない彼の秘密を知れたような気がしたから。

 凛音は考えながら、ゆっくりと口を開く。思えば、彼とまともに会話をしたのはこのときが初めてだった。

『泣くのは、好きじゃないんです』

 泣いて事態が好転したことなんて一度もない。どれだけ泣いたって、凛音の孤独は埋まらなかった。

 龍一はくくっと肩を揺らして皮肉げに笑う。
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