結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 こんなに大勢の人であふれているというのに、凛音の視線は吸い寄せられるように龍一のもとでぴたりと止まる。

 にこやかな笑顔で会話する彼の姿をじっと見つめていた凛音は、真後ろに近づいていた気配に気づかなかった。

「そんなに真剣に、なにを見ているのですか」
「え?」

 自分にかけられた声とは思わず、反応が遅れた。

 振り返ると、ひとりの男性が優しげな笑みを向けていた。やはり凛音に話しかけたらしかった。

「あ、なにをというわけではなく……にぎやかだなと」

 兄を見つめていたのだと正直に話すわけにもいかない。凛音は答えをにごす。

「本当ですね。さすがは水無月シップス主催のパーティーだ」

 柔らかそうなダークブラウンの髪と笑うと細くなる目元が人懐こい印象を与える。親しみやすいタイプのイケメンで、さぞかし女性にモテることだろう。凛音よりは年上だろうが、龍一より若そうだ。

(誰だろう……)

 さきほど紹介された実業家たちのなかにはいなかった顔だ。それに、彼は経営者といった雰囲気ではない。もっとごく普通の……大企業に勤める優秀なビジネスマン、そんな感じに見える。

(誰かの秘書かな?)
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