結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 夕刻とは思えぬほどギラギラした西日が凛音の白い頬に照りつける。

 じっとりとまとわりつく湿気が体力を根こそぎ奪っていく。徒歩で十数分の渋谷駅に到着する頃には、すっかり息切れしていた。

(妊婦さんって大変なのね)

 凛音は小柄だが、体力だけはわりとあるほうだったのに。

 つわりという得体の知れない敵の手強さに思わず苦笑を漏らす。

(病院があって落ち着ける場所を探さないと)

 妊娠初期に無理をしてはいけないことくらい知っている。今夜のうちに移動して、まずは診てくれる病院を探さなくては。

 渋谷駅は時間帯を問わず、いつでも混雑している。ビジネスマン、学生、外国人。みな動くスピードが速く、今の凛音には周囲と足並みをそろえるのもひと苦労だ。

 改札口の手前で、ぐらりと視界が斜めになった。とっさと足を止めると、すぐに後ろの人から抗議の声があがる。

「ちょっと! 危ないでしょうが」
「す、すみません」

 凛音は軽く頭をさげ、人混みを逆流して倒れ込むように通路の端に向かう。

 猛烈な吐き気が凛音に襲いかかっていた。

「凛音さんっ」
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