私たちはこの教室から卒業する。
 卒業式が終わった。

 すぐには帰らず、静かになった学校をさまよう。

 音楽室、体育館、理科室、美術室……。
 ひとつひとつの場所に、思い出が染みついている。それぞれの教室で、リアルタイムで過ごしていた時には、やがてそれが思い出になるんだという事は特に考えてはいなかった。

 自分が過ごした教室に入った。

 私の中で一番濃く、強く染み付いているのは、彼と、そして和真と過ごしたこの教室。

誰もいない教室の、いつもの窓側の席に座り、ここで過ごした日々を思い出す。


 「あーあ、もう、和真と一緒に、ここで過ごす事はないのかぁ」

 私は天井を見上げた。

 点やひょろっとしている線達が、規則的に並んでいる縦と横の線でつくられた枠からはみ出ないように、不規則で個性的なダンスをしている。不安や期待、色んな気持ちを背負って。

 なんていう名前の柄なんだろう?
 スマホで調べてみると『トラバーチン模様』って名前が出てきた。

 再び天井を見上げる。

「なんだか、ひとつひとつの教室みたい」

 ひとつの枠に収まって。その中での約束事や、仕切っている人についていっている。表面ではひとつの枠でまとまっているように見えるけれど、納得していない人や違う意見を持っている人も実は結構いたりして、ひとつの枠の意見です! って言えない雰囲気。あのふにゃっとした線とか反発心すごそう。あれ、私の心の中かな?

「いや、これ、教室ではなくて国?」

 私はどこに向かうのか分からない考えを頭の中で泳がせ、天井の模様をずっと見つめていた。ぽつりぽつり独り言を呟きながら。




 

 
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