孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
脳外科のシンデレラ
今年もあと二週間。
世知辛い世相と実りなき一年を振り返って、寒さが一層身に沁みる年の瀬が迫っている。
朝から薄曇りの空模様の今日、午後三時。
私、茅萱(ちがや)(かすみ)は、本日最後の一仕事を前に、スタッフ準備室に入った。


紺色のスクラブの上から羽織っていたカーディガンを脱ぎ、十個並んだ一番端のロッカーに入れる。
茶色くカラーリングした癖のない髪は、肩にかかる長さなので、後ろの低い位置で結んでしっかりとキャップに纏める。
マスクをつけ、ロッカーの扉に据えられた小さな鏡を覗き込んだ。


アイブロウで整えた眉。
丸い目はそれほど大きくないけど、こうしてすっきり額を出すと自然と力が漲る。
鏡の中の自分を一度ジッと睨みつけてから、両手でパンと頬を叩き、気合を入れた。
肩を動かして、ふうと息を吐く。


これからここ、国立東都大学医学部附属病院の第四手術室で、六十代男性患者の脳下垂体腫瘍摘出術が行われる。
主訴は視力低下、視野異常。
近所の眼科クリニックを受診した後、紹介状を出されて来院した患者だ。
それを踏まえ、うちの病院では脳外科で精密検査を行い、脳下垂体腺腫という診断に至った。
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