孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
下垂体とは、ホルモン分泌を司る器官だ。
脳の最深部、視神経の近くにあるため、ここに腫瘍ができると、目に自覚症状が出るケースが多々ある。
下垂体は鼻の入り口から十センチほど奥にあり、脳外科オペといっても、開頭せずに経鼻的なアプローチが可能だ。
鼻の奥の粘膜を切開して、そこから内視鏡を挿入する。
オペは二、三時間程度で終わり、目視できる場所に傷は残らない。
頭の中に、今日の患者情報とオペの段取りを巡らせ――よし、ルーティン終了。


私は新卒でこの病院に入職して以来八年、一貫して手術部所属の看護師だ。
このオペでは、外回りを担当する。
ロッカーを閉め、背筋を伸ばして脳外科専用の第四手術室に入った。
すでに、器具の最終確認をしていた、後輩で器械出し担当の中谷(なかたに)さんと、挨拶を交わしていると。


「お疲れ様です、7B脳外科です。患者さんお願いしまーす」


オペ室の自動ドアが開き、脳外科病棟の看護師がひょいと顔を出した。
清潔区域であるオペ室には、病棟看護師は入ってこれない。


「はい」


私は、患者を受け入れにそちらに歩いた。
患者のリストバンドのバーコードをセンサーで読み取って照合して、病棟看護師から申し送りを受ける。
< 2 / 211 >

この作品をシェア

pagetop