孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
それほど遠くないテーブルには、心臓外科の研修医集団がいる。


「イニシャルトークでお願いします」


私が言わんとしたことは、彼女も察してくれる。


「御意」


畏まった同意を得て、私は小さな吐息を漏らした。
そして、箸で蕎麦を摘まみ上げ、


「操は、『K』の変貌の理由を、好きな人を振り向かせるためって言ったけど、私はKの好きな人……とは言えないと思う」


自分の中で言葉を探しながら、辿々しく口にした。


「なんでよ。クリスマスとお正月、冬のイベントで立て続けにデートしておいて」


操は食事の手を止め、ズケズケと畳みかけてくる。
ズズッと蕎麦を啜った私は、グッと詰まった。


まあ、私がクリスマスに約束していた『中学時代のクラスメイト』が霧生君なのは、彼女もすでにお見通しだし、私もこの期に及んで言い逃れするつもりはない。
彼のプライベートなことに触れてはいけないけど、最低限は触れないと操に話が伝わらない。


私は、どこまでなら話せるか、ギリギリのラインを模索しながら、再会した時のこと、そこから期間限定の契約結婚に至った経緯をできるだけ端的に語った。
その間、私の箸は完全に止まっていたけど、操は黙々と食べ続けていた。
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