孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「それに君、これは僕の復讐だと思ってるんでしょ?」

「え? ……あっ」


そのワードに心当たりがあったせいか、彼女の顔がわずかに強張った。


「だったら、この程度じゃ終わらない。終わらせるものか」


皮肉混じりに断言する僕の前で、霞は中途半端に腰を浮かせて絶句した。
僕を見上げる瞳は、戸惑いが色濃い。
僕も、意固地になっている自覚がある分、きまり悪い。
彼女の視線から逃げるように顔を背け、踵を返した。


「霧生君、待っ……」

「僕、明日朝一番からオペだから、先に休む。お休み」


後を追ってくる呼びかけを断ち切るように言い捨て、スタスタとリビングを横切った。
廊下に出て、ドアを背で押し閉め、がっくりとこうべを垂れる。


僕の秘密、恥辱……霞がそれを霧散させて、離婚を要求しようと考えるのも当然のことだ。
そのために自分の身体を差し出そうとする……底なしのお人好しの彼女なら、そんな行動に出ることも想定できたのに。
いざされてみると、僕は霞の方から仕掛けられたキスに高揚して、その意図も考えずに流されかけた。
そして、大人げなく苛立った――。


「……くそっ」


不甲斐ない自分に舌打ちして、唇に手の甲を押し当てて声を殺した。
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