孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「君の語彙センスは、僕の予想の斜め上を行くな……」


半分感心して、しげしげと呟く。
霞はグッと言葉に詰まってから、半ば飛び跳ねるようにしてソファに正座した。


「でも。その秘密が、秘密じゃなくなったら」

「え?」

「霧生君の秘密って……経験がないってことでしょ。だから、そうじゃなくなったら私たち……」


必死な顔で大きく身を乗り出す様に、彼女の思考回路がどういう方向にぶっ飛んだか、理解が繋がった。


「なるほどね……」


霞は、顎を摩って思案する僕に答えを求め、目を凝らしている。


「自分で僕を童貞卒業させ、結婚を継続する意味はないと主張して、断固離婚を要求しようと考えた?」


僕も彼女の方に身体を傾けて、質問で返した。


「は……?」


霞はきょとんと目を丸くして、次の瞬間、ひゅっと音を立てて息をのんだ。
その反応に、僕は肩を動かして溜め息をつく。


「らしくない色仕掛け。頑張ってくれたのに申し訳ないけど。僕はこのまま一生未経験で構わない」


ギシッとソファを軋ませて立ち上がる僕を、彼女の丸い目が追ってきた。
僕は鷹揚に腕組みをして首を傾げ、斜めの角度から彼女を見下ろす。


「だから、おあいにく様。絶対に離婚はしないよ」

「ちょっ、あの……霧生君?」
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