孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「霞、三十になって結婚焦ってるんだろ? でも俺は違うんだよ。そもそも、霞と一生連れ添うなんて、絶対無理」


私は絶句して黙り込み、剛は逆に興奮を強めた。
彼の声が大きくなり、行き交う人がますます私たちに注目していく。


わかった。ごめんなさい。
私が悪かったから、もうやめて――。


一緒に注目される彼に申し訳なかったからか、ただ私自身が惨めだったからか。
謝罪される側だと思っていた私が、堪らなくなって口走ろうとした、その時。


「君、言ってて恥ずかしくない?」


抑揚のない声が割って入ってきて、剛がビクッとして口を噤んだ。
声の出どころを探して、病院の正面玄関の方を振り返る。


「小言ばかりの母親みたい。息苦しい? でも君、そういう彼女に、いいように甘えてきたんだろ?」


私も彼に遅れて、緩慢な動作で同じ方向に顔を向けた。
スーツの上着を肩から背中に提げるように持った、ワイシャツ姿の長身の男性が、ゆっくりこちらに歩いてきた。


まったく手をかけていなそうな、少し長めの黒い髪が無造作に散っている。
前髪が目元にかかっている上に、大きな眼鏡で顔半分が隠れていて、顔立ちは全然わからない。
男性は、剛の前で両足を揃えて立ち止まった。
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