孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
車椅子で移動してきた患者を手術台に移乗して、麻酔科医が麻酔導入を始めた。
そのタイミングで、ブルーのガウン姿の男性医師が入室した。


ガウンで体型がわからないけれど、長身で、引き締まったスレンダーな体格をしている。
聡明さを表す、形のいい広い額。
キャップとマスクの間に覗く、男らしい太い眉はなだらかに上がっていて、切れ長の目がとても涼しげ。


彼が今オペの執刀医、霧生(きりゅう)颯汰(そうた)だ。
その後から、やや小柄な第一助手も続く。


「よろしくお願いします」


外回りの私が迎えると、霧生先生は深く澄んだ黒い瞳に私を映し、頷いて応じた。
患者が深麻酔状態に入り、オペに携わるスタッフ全員が手術台を取り囲む。
両手を胸の高さに上げたまま、霧生先生が皆にサッと視線を走らせた。


「患者氏名、田中(たなか)昭雄(あきお)さん、六十五歳。診断名、脳下垂体腺腫。経鼻的内視鏡術で、視神経を圧迫している腫瘍を摘出します。所要時間は二時間程度を見込みます」


落ち着いた低い声。
抑揚のない淡々とした口上が、鼓膜に心地よく残る。
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