孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「で、でも」


視線を留める場所がなく、手元に落とした。
いつの間にか、焼き鳥は全部串から外れ、お皿は肉の山になっていた。
そこから箸で一つ摘まみ、口に運ぶ。


「結婚なんて一生の問題、そんな急いで適当に決めなくても。教授だって、なにも強引に推し進めようなんて……」

「一生じゃなくていい」

「え?」

「茅萱さんは、もう恋なんてしないと言ったでしょ。だから、ちょうどいいんだ」


私は、口の中のものをほとんど咀嚼しないまま、ゴクンと飲み込んだ。
喉につかえそうになって慌てて、紫蘇焼酎のグラスを口に持っていく。
二口飲んでふーっと長い息を吐き、カウンターにグラスを戻して……。


「……普通の結婚じゃない、ってことだ」


導き出した答えが正しいか確認するために、慎重に口に出す。
私が窺う中、霧生君は静かに睫毛を伏せた。
そして。


「期間限定で、契約結婚」

「契約結婚」


無意識に反芻した私には、相槌で応える。


「それなら、恋愛感情も必要ない」


さっきまでは滲む程度だった黒さを憚らず、どこか狡猾に微笑んだ。
即座に反応できず、言葉に詰まる私から目を逸らし、私が築いた焼き鳥の山に向ける。
そこから箸で一つ摘まむと、ポイと口に放り込んだ。
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