孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「霧生君、この眼鏡も眼精疲労の原因だよ。レーシックして、視力回復してるんでしょ? 伊達眼鏡ならやめたら?」


私はちょっと呆れ気味に、彼の膝の上からそっと眼鏡を取った。
両手の指でテンプルを摘まみ、自分の目の高さに掲げる。
レンズの度はかなり強く、それほど視力の悪くない私には、レンズ越しの世界はグニャリと歪む。


「これ、効果あるんだよ」


そういう形に動く薄い唇を横目に、私は気付かれないように溜め息をついた。
彼の言う『効果』とは、一言で言うと女避けだ。
確かに、霧生君が入職した当初、手術室看護師の間では『脳外科のシンデレラ』と呼ばれ、オペ後に消える彼は都市伝説化した。
今日、高村先生とのやり取りを目撃したのもあり、納得せざるを得ない。


「よっ……。タオル、ありがとう」


霧生君が、掛け声と共に背を起こした。
温くなったハンドタオルをローテーブルに置く彼に、今度はミネラルウォーターのボトルを差し出す。


「ありがとう」


お礼を繰り返し、すぐに蓋を開けて口をつける彼を、私はぼんやりと眺めた。
霧生君から持ち掛けられた期間限定の契約結婚に合意して、彼の家で同居するようになって、もうすぐ丸三ヵ月――。
< 46 / 211 >

この作品をシェア

pagetop