孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
病院まで徒歩七分ほどの住宅街に建つ新築マンションは、私の看護師寮とは病院を挟んで反対側にある。
大学医局側が用意したゆったり3LDKのファミリー物件で、もちろん賃貸ではなく分譲。
一人暮らしでは持て余す広さだから、『ルームシェア感覚で、一部屋使っていいよ』と言われた。


入籍して『夫婦』になったとは言え、私たちにその実態は必要ないのに、一つ屋根の下で一緒に暮らすことには抵抗があった。
私たちの希望もあり、『結婚』の情報は脳外科教授止まりで、看護師長にも伏せられたまま。
傍から見ればただの同僚だからこそ、霧生君は『教授に怪しまれると困る』と、同居を強く要望した。


離れて暮らす両親に嘘をつく私と違って、霧生君は共に働く上司を欺かなければならない。
私の方は、彼を結婚相手として両親に紹介して、安心させることができた。
お互いメリットがあるから成立する契約である以上、霧生君から同居を頼まれたら、断れなかった。
半ばヤケ……清水の舞台から飛び降りる覚悟で、始めた同居生活――。


これが、思いのほか快適だった。
最初の一ヵ月は、他人との共同生活に戸惑い、遠慮や窮屈さもあったけれど、すぐにペースが掴めてきた。


手術部の私は、基本的に土日祝日休み。
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