孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
霧生君は、予定手術がある平日と土日や夜間の当直も含めたシフト勤務で、気詰まりになるほど生活を共にするわけではない。
家にいる時間が合えば、一緒に食事したりお酒を飲んだり。
脳外科医の彼からは、仕事に直結する知識を得ることもできるし、私には想定以上のメリットがあった。


楽しい修学旅行の延長のような毎日……そんな契約結婚も、年末大晦日で期限を迎える。
同居生活も残すところあと二週間……夕刻、霧生君には『名残惜しくなったら困るでしょ』なんて言ったけど、ゴールが近付き、終わるのが少し寂しい思いは否めない。


「……? 茅萱さん、どうかした?」


どっぷり思考に嵌り、ボーッとしていた私は、探るように呼びかけられて我に返った。
ミネラルウォーターを半分ほど飲み干した霧生君が、首を傾げている。


「あ……ううん」


私は慌てて笑顔を繕った。
彼の訝し気な視線から逃げるように目を彷徨わせ……。


「あ。そうだ! オペの後話した大晦日の納会。どう?」


気を取り直して問うと、霧生君も思い出したように「ああ」と相槌を打つ。


「当直じゃなかったし。別にいいけど」


ペットボトルに蓋をしながら、さらりと答えた。


「ほんと? よかった」


私はホッと息を吐いた。
最終日の約束をしたことで、本当に区切りがついた気がする。
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