孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
――なんだったんだろう、今のは。
私は霧生君のダブルベッドの上で膝を抱え、混乱する頭を必死に働かせた。
やっぱり、私じゃその気になれなかったとか。
いやいや、それはないはず……と、彼の昂りをしっかり感じた自分のお腹を無意識に摩って否定する。


私も胸を張れるほど経験があるわけじゃないから、断定はできないけど――。
霧生君が回収しきれず落ちていた四角いパッケージを指で摘まみ、目の高さに持ち上げてジッと見据えた。


「これは……失敗したってことだよね……?」


誰にともなく問いかけ、つまり、と自分で回答を導き出す。
多分……いやかなり高確率で、霧生君は初めてだったということだ。


あの長身、引き締まった理想のスタイルで。
大きな眼鏡で、自ら『女避け』をするほどのイケメンで。
新鋭とは言え、将来有望な超エリート脳外科医が。
本当に、本当に初めて――?


正直、『まさか』と、信じ難い気持ちの方が大きく上回る。
でも、今大事なのはそこじゃなくて。


「……相当、傷ついてるよなあ」


肩を落としてうなだれる霧生君の姿が、網膜に焼きついて離れない。
私は抱えた膝に額を預け、深い溜め息をついた。


女の私は、そういう経験の有り無しなんて大したことじゃないと思うけど、男性にとってはプライドとか沽券に関わる、かなりデリケートな問題なのは察せる。
霧生君が本当に今夜が初めてだったとしたら、失敗に焦って悄然として……さらに私に見られて絶望を深めたと考えられる。
< 66 / 211 >

この作品をシェア

pagetop