"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
のんびりと駅前通りまで歩いていると、お肉の焼けた匂いが漂ってくる。鼻を掠めたその匂いは、胃を刺激して食欲を掻き立てる。

「焼肉……!」
「あ、焼肉!」

チェーン店の焼肉屋さんの前を通りかかり、二人同時に声に出してしまった。両親はどちらかと言えば魚を主に好んで食べている為、焼肉はしばらく食べていない。たまに食べる肉と言えば、ここの所、樋口さんの好きな唐揚げだったし。

「あはは、焼肉食べたいですね」

「そうですね、そうしましょうか」

駅ビルの中にあるイタリアンにするか、駅裏にある個人が経営しているピザが美味しいイタリアンにするか、二人で決めかねていたのだが、あっさりと焼肉に変更になった。

店内に入ると私はキウイフルーツの果肉が入ったサワーをオーダーし、樋口さんはクエン酸たっぷりのレモンサワーをオーダーした。

「樋口さんは酸っぱいのが好きなんですね」

「好きなのもありますし、ビタミンたっぷりと書いてあったので。普段からビタミン不足で口内炎が出来易いのです。……なので、少しでも気を遣っているつもりです」

樋口さんはビタミン不足。これからはきちんと把握しておこう。

「わぁ、やはり、酸っぱいですね。でも、嫌いじゃないです」

サワーが届いて、私達はグラスをカチンと合わせて乾杯をした。一口飲んだ樋口さんは酸っぱさに目を瞑っていて、痩せ我慢しているような樋口さんが可愛く見える。
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