溺愛ハンティング
      *    *    *

「はい、みなさん。こんにちは!」

 柔らかいが、よく通る声が響いた。

 ほがらかに挨拶する男性を見て、私は小さく息を呑む。

(……そのまんま)

 金色に近い短めの茶髪、百八十センチを超える背丈、アスリートのように鍛えられた体つき、そして精悍なのに、甘さとさわやかさがうまくミックスされた顔立ち――特に切れ長の目元が印象的で、ありふれた紺色のつなぎ姿なのに、それがハイブランドの一着に見えてしまいそうなほどかっこいい。

 そこにいる相手は、一昨日受け取った資料の写真とまるで同じ。
 そして彼に感じた印象もその時と同じだった。

(こういうタイプ……やっぱり苦手)

 まぶしいくらいの全方向イケメンに、私はただ圧倒されるばかりだったが――。

「お忙しい中、『八木苑ボタニカルツアー』にご参加いただきまして、どうもありがとうございます。僕は、本日のガイドを務めさせていただく八木耕輔です。どうぞよろしくお願いいたします!」

 八木さんが頭を下げると、あたりは大きな歓声と拍手に包まれた。

 というのも、彼は老舗で名高い花卉卸問屋『八木苑』の六代目で、今をときめくプラントハンターでもあるからだ。

 だが実は、それがどんな仕事なのか私はまったく知らない。
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