因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
義務的な縁結び

 楓の葉が赤く色づいた、十一月下旬。

 菊の文が入った白無垢に身を包んだ私、醍醐和華(だいごわか)は、浅草の由緒ある寺院の本坊にいた。

 綿帽子の限られた視界に映るのは、年配の住職とその奥にある仏様の像。

 龍笛(りゅうてき)の旋律が美しい雅楽の演奏と、本堂全体に漂う沈香(じんこう)の香りに祝福されながら、私は喜ぶわけでもなく不思議な心持ちだった。

 芸能人同士の結婚ニュースなどで、仏前結婚式というものの存在は知っていたけれど、まさか自分が当事者になるなんて。

 住職が読経を終え、私と夫に念数(ねんじゅ)を授けてくれる。

 続けて指輪を交換する際に、初めて夫である醍醐光圀(みつくに)さんと向かい合った。

 きりりと上がった眉、鋭い切れ長の目、尖った鼻、品よく引き締まった薄い唇。

 どのパーツも美しく配置も完璧で、ため息が出そうになる。

 彼が纏う柳の紋が入った羽織袴は、醍醐家に代々伝わる、歴史ある代物だ。

 一般家庭で育った私なんかとは格が違う彼は、それを堂々と着こなし、凛としたオーラを放っている。

 現在二十六歳の私より四つ年上の光圀さんは、室町時代から続く香道の一流派、醍醐流香道の家元。

 香道家としての名は、醍醐万斎(ばんさい)という。

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