因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
彼が恋しい夜

 クリスマスが過ぎると、醍醐家は年末の大掃除で再び忙しくなった。

 楓子さんが音頭を取り、担当場所や清掃内容、その手順まで詳しく決められている。

 私に割り当てられたのは、家の敷地の一番隅にある、古い蔵の中。

 普段の掃除を家政婦とふたりで担当したことはあるが、今回は『ひとりでできるわよね』と楓子さんに圧を掛けられ、できませんというのも悔しいので承諾した。

 毎日誰かしらが簡単に掃除しているのでそこまで埃は溜まっていないが、今日は保管してある書物の整理も命じられている。

 蔵の中には巨大な書架があるが、そこから出されたまま無造作に床に置かれた本も数えきれないほどあるので、気の遠くなる作業である。

 中には歴史的価値の高い古典文学の全集、醍醐家に代々伝わる大切な古文書もあるとのことで、取り扱いにも十分注意しなければならない。

 毎日少しずつ作業を進め、大晦日まであと三日に迫ったその日の午後も、私はひとりで蔵にこもっていた。

 換気のため、三重になっている入口の扉はすべて開けっ放しにしてある。

< 113 / 230 >

この作品をシェア

pagetop