因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
醍醐家に渦巻く人間模様

「ん~……よく寝た」

 翌朝。自分のために与えられた八畳の和室で上体を起こした私は、のんびりあくびをした。

 部屋の隅には引っ越し用の段ボールが積みっぱなし。結婚式前に実家から業者に運んでもらった荷物がそのままになっている。

 昨日は結婚式で疲れていたので、入浴の際に部屋着のもこもこしたマキシワンピースと化粧道具だけ引っ張り出し、あとは明日でいいやとすぐに眠ってしまったのだ。

 枕もとのスマホを手に取ると、すでに八時を過ぎていた。

「それにしても、いい香り」

 掛け布団を手繰り寄せ、鼻先に寄せる。光圀さんが香道をたしなんでいるせいか、この家の布団には香木のかぐわしい香りが染みついているようだ。

 ゆっくり寝坊して、香りに癒されて……いい朝だな。

 しみじみ目を細めつつ、ようやく布団から這い出たその時だった。

 スパン、と部屋の襖が勢いよく開いて、着物に割烹着姿の女性が寝起きの私を見下ろした。

 この家に住み込みで働く家政婦を束ねている、犬上楓子(いぬがみふうこ)さんだ。

 五十代には見えない美人でスタイルもよく、昨日の結婚式ではからし色の訪問着を品よく着こなしていた。

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