因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 その日、上野の香道教室に出かけていた俺が夕方に帰宅すると、和華が真っ青な顔で床に臥していた。

 布団の脇で彼女に付き添っていた家政婦に話を聞くと、昼食の時に突然気分が悪くなり嘔吐したそうだ。

 たまたまそばにいた楓子さんが彼女を介抱し、病院にも連れて行ってくれたらしい。

 俺は一度和華の部屋を出て、楓子さんの姿を探した。

 彼女は食堂の台所でで夕食の準備をしていたが、俺の姿に気づくと調理の手を止めて土間から上がってきた。

『お帰りなさい、光圀さん。和華さんにはもう会われましたか?』
『はい。顔色は悪く、話ができる状態ではありませんでしたが。病院の先生はなんと?』
『それなんですが……おめでとうございます。和華さん、ご懐妊だそうです』

 楓子さんが、改まった口調で告げた。

 俺は一瞬その意味が理解できず、呆然として固まる。

〝ゴカイニン〟という病の名は聞いたことがないなどと、頓珍漢な思考まで頭を巡る。

『……本当に、よく似た親子ですこと』

 少しして、寂しげな微笑みを浮かべた楓子さんが不意に呟いた

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