君しかいない
 わたしの隣に成瀬が腰を下ろすと、重みの違いから身体が成瀬の方に傾き肩がぶつかって触れた。それだけなのにドキドキしている。
 翔斗さんに触れられ何かされるかもしれないと危険を感じた、あの危機感のドキドキとは違う。
 東堂家の執事として仕えている時とは違う成瀬の姿を見るのは、ほぼ初めてに近い。
 普段はスーツに合うようキチンとセットされた髪が洗いざらしのサラサラヘアだし、Tシャツとスキニーパンツで完全にオフ姿の成瀬は新鮮で。
 このドキドキ感は成瀬に対してだけで、特別な感情だ。もっと近づきたいし触れていたい。

「翔斗さんと何があったか聞かないの?」
「……」

 成瀬の視線は正直で、コートで隠れている破れた服に目が向き。申し訳なさそうに視線を逸らしたから。わざわざ話さなくても推測できると言われているみたいで苦しい。

「成瀬、向井と話す時みたいに普通に話して」
「いえ、それは……」
「どうして? 成瀬は東堂家の執事お休み日なんだし、いいでしょ。わたし、成瀬と対等に話したい」
「お休みを頂いている日だとしても、私にとって真尋様はお仕えしている東堂家の方に変わりはございませんので」
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