君しかいない
 頑なに拒否する成瀬に腹が立ち、わたし自身の立場にも苛立ってくる。どんなに壁を壊そうとしても、わたしたちの関係はどこまで行っても執事と主人でしかないなんて。
 わたしは成瀬のことがホントに好きなのに、どんなにこの気持ちを伝えても成瀬にとっての「好き」は東堂家の人間であるわたしを慕ってくれているだけということなのだろうか。
 成瀬の本心が分からないし掴めないから、気持ちのやり場がなくて余計に苦しい。

「成瀬、わたし結婚したくない。ずっと成瀬と一緒にいたい」

 強引に成瀬の腕を引っ張り、わたしの方へ顔を向かせようとした。しかし、その力加減が悪かった。

「うわっ」

 勢い余りソファに倒れ込み、成瀬に押しつぶされそうになった。

「……ねぇ、こんな体勢でも成瀬はわたしにドキドキしないの?」

 慌てて身体を起こそうとした成瀬の首に腕を絡ませれば、離れることが出来なくなった成瀬との距離は近いまま見つめ合っている。
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