君しかいない
 周囲に頼らず身の回りの事くらいは自分でできるようにならなければ、と生活スタイルを見直す。朝は目覚まし時計で起きるようにしたし、着ていく服も前夜に悩みながらも選ぶようになった。自家用車での送迎は止め、公共機関を利用できるようになった。

「今までは成瀬さんに頼りきりだったことも、最近の真尋様はおひとりでできるようになって。きっと今の真尋様を見たら、成瀬さんビックリしちゃいますよ?」

 珈琲を淹れてきてくれた向井は成瀬がいない間、わたしの話し相手になってくれていた。歳が近いこともあり、今では友達みたいな存在になっている。

「……甘え過ぎていただけよ」

 伏し目がちにカップに口をつける。やはり何度飲んでも成瀬が淹れてくれた珈琲が一番美味しい、なんて未だ思ってしまう未練がましいわたし。
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