君しかいない
 わたしを縛るものは何も無い、今なら成瀬に体当たりできる。そう思って会いに行ったはずなのに、何も言えなかった。
 あんなに自然な二人の空気感に触れたら、聞かなくても分かる。邪魔をしたのわたし。
 成瀬に拒否される前に現実を知ってしまうなんて、さすがに想定外過ぎる。

「成瀬にはあの女の人がいたから何度好きって伝えても、わたしの気持ちを受け止めてはくれなかったのか」

 今回ばかりはダメージが大きくて、立ち直れないかもしれない。あんなに美人で綺麗な女性が相手では、わたしなど太刀打ちできない。そう思ったら、気分はドン底で暫く立ち直れないだろう。
 それに、成瀬は退院しても東堂家へ戻らないかもしれない。例え戻ったとしても、わたしの執事職からは外れることになるだろうと父からも言われている。
 わたしも気持ちを吹っ切れないまま成瀬が傍に居てくれても正直辛いから、父の意向に納得しているけれど。それならば、わたし自身が成瀬に頼らず自立できなければいけないと感じた。
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